年次有給休暇~5日付与しなければ罰金30万円

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年次有給休暇は労働者の当然の権利

年次有給休暇とは

年次有給休暇とは、労働者が6か月継続勤務すると当然の権利として有給で取得できる休暇で、休暇を取った日も賃金が支払われます。
年次有給休暇が付与される要件は次の2つです。

(1)雇い入れの日から6か月経過していること
(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと

この2つの要件を満たした労働者は、年次有給休暇を取得する権利を得ます。
6か月継続勤務して年次有給休暇の権利を取得した日を基準日と言います。
その事業所のフルタイムの労働者であれば、このとき10労働日の年次有給休暇が付与されます。
また、最初に年次有給休暇が付与された日から1年を経過した日に、(2)と同様要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出したこと)を満たせば、11労働日の年次有給休暇が付与されます。その後も同様に要件を満たすことにより、次の表のように日数が付与されます。
労働基準法第39条で、労働者に年次有給休暇を付与することを事業主の義務と定められています。

労働基準法第39条「年次有給休暇」の条文はこちら

 

【年次有給休暇の付与日数】 フルタイム

この表のように、勤続6年6か月以上になると、毎年20日の年次有給休暇を取得できることになります。
さらに年次有給休暇の時効は2年なので、仮に前年に年次有給休暇を全く取得しなかった場合は、最大で1年に40日の年次有給休暇を取得できる可能性があります。
もっとも2019年4月から、使用者は年次有給休暇を必ず年5日以上付与しなければならなくなったため、現在はそういう状況にはならないはずです。

 

年次有給休暇は労働者が請求する時季に付与

年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えなければならないと労働基準で定められています。
なお、単なる期間を指す「時期」ではなく、季節のニュアンスを含む「時季」という漢字を使います。

 

事業の正常な運営を妨げる場合は労働者の希望する時季を変更できる

ただし使用者は、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与ることが事業の正常な運営を妨げる場合にのみ、他の時季に年次有給休暇を変えるよう労働者に求めることができますが、その時季での取得を拒んだまま年次有給休暇を付与しないとすることはできません。
では年次有給休暇を時季変更できる期間はいつまでか?というと、この場合基準日は関係ないので基準日を超えて変更を求めても問題ありません。
しかし、裁判例などからおおむね1週間~1か月以内には変更する必要があると考えられます。

 

5日の時季変更は基準日から1年内で

ところで年5日の年次有給休暇を取得させなければなりませんので、この5日分の時季変更権は当然、基準日から1年の内でしか行使することができません。
労働者が継続勤務して6か月経過し年次有給休暇が発生する日を基準日と言いますが、5日分を時季変更できるのは基準日から1年間の内、ということになります。
すなわち例えば1月1日入社の労働者の場合、7月1日から翌年6月30日までの中でしか変更できませんし、 その翌年もまた、その年の7月1日からその翌年6月30日までの間でしか変更できません。
また年次有給休暇の基準日を全員あるいは何通りかに分けて同じ日に定めている場合は、 その基準日からの1年間の内で変更できることとなります。

 

使用者による時季指定

法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者(管理監督者を含む)に対して、年5日までは、使用者が労働者の意見を聴取した上で、時季を指定して取得させる必要があります。
使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた年次有給休暇の日数(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除する必要があります。

 

年次有給休暇は非正規労働者にもある

アルバイト 非正規労働者一昔前は「アルバイトに年休は無い」などと誤ったことを言い切ってしまう事業主や労働者もいましたが、現在ではそういう誤解をする人はかなり少なくなりました。
当然、アルバイトなど非正規労働者にも年次有給休暇を取得する権利はあります。
たとえ週1日しか働かない労働者でも、年次有給休暇は取得できるのです。

 

労働日数が少ない労働者には労働日数に応じて比例的付与

年次有給休暇は、パートやアルバイトなど労働日数が少ない労働者や非正規労働者にも当然の権利として付与されます。
ただし、所定労働日数が少ない(週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の)労働者は、フルタイムと同様の日数の年次有給休暇がもらえるわけではありません。
その労働日数に比例した日数の年休が取得できるのです。
これを、年次有給休暇の比例的付与と言います。
年次有給休暇の比例的付与の日数は以下の表のようになります。

 

【年次有給休暇の付与日数】パートタイム

年次有給休暇の付与日数  比例付与   

 

シフト制で日によって所定労働時間が異なる場合の年次有給休暇

時間給制で、シフト制などで日によって所定労働時間が異なるパートタイム労働者などの場合、年次有給休暇を取得した日の賃金額はどうなるのでしょうか?
その日の所定労働時間が何時間であったかによります。
例えば年休を取得した日が5時間働く予定の日であった場合は、その日についての年次有給休暇の賃金は5時間労働した分の額です。
またその日が8時間働く予定であった日に年次有給休暇を取得すると、その日の年次有給休暇の賃金は8時間分となります。
従って所定労働日が長い日に年次有給休暇を取得するほうが労働者にとっては得ということになります。

ところでシフト制の場合、わざわざシフトに入っておきながらその日に年次有給休暇を取得して出勤しないというのは、現実的にはその日に人手が足らなくなって業務に支障が出るということもあるでしょう。
そのようなことを防ぐため、シフト表を作るときに予め年次有給休暇の希望を聞いておくのがよいでしょう。
そしてシフトに入る日によって労働時間に差がある場合は、年次有給休暇の日の賃金額をどうするか前もって労使で話し合って定めておく必要があります。
当然、労使で合意したとしても、賃金額が法に反して低くなることは認められません。

 

途中で所定労働日数を変更する場合の年休の日数は?

途中で所定労働日数が変更になる場合の年休の付与日数は、基準日の時点での所定労働日数によって決まります。
基準日に得た年次有給休暇の日数は、たとえその後に所定労働日数が増えても減っても、基準日の時点での日数ぶんの年次有給休暇を取得することになります。
具体的には例えば、週5日のフルタイム正社員だった人が入社6か月後に10日の年次有給休暇を取得した後に、週3勤務のパートタイマーに変わっても、年次有給休暇を取得できる日数は週3日の比例的付与日数の5日ではなく週5日勤務の場合の10日のままです。
逆に例えば週2日勤務のパートタイマーとして入社した人が6か月後の基準日に比例的付与の3日の年休を取得した後にフルタイムの週5日勤務に変わった場合でも、年次有給休暇は週2時期の3日のままです。
そして次の基準日にはフルタイムとしての年休を得ることとなります。この場合、次の年の年休は10日ではなく11日です。2回目の基準日だからです。

 

年次有給休暇は管理監督者にもある

管理監督者年次有給休暇は管理監督者にもあります。
たまに誤解している方もいますが、管理監督者は時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いは必要ありませんが、年次有給休暇は管理監督者にも取得させなければなりません。

 

年次有給休暇を5日以上付与しなければ事業主が罰金30万円

年次有給休暇の確実な取得は働き方改革の重要な柱

日本は諸外国と比べて年次有給休暇の取得日数が少ないことが長らく問題となっていましたが、長年の年休取得推奨にもかかわらずあまり改善が見られなかったため、ついに2019年4月から、年次有給休暇の付与は事業主の義務とされました。
罰金 労働基準法違反労働基準法が改正され、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させなければならなくなったのです。
これに違反すると事業主に、違反1件につき30万円以下の罰金が課せられます。(労働基準法第39条第7項)

使用者は「労働者自らの請求」、「計画年休」及び「使用者による時季指定」のいずれかの方法で年次有給休暇を取得させる必要があります。
使用者は労働者の意見を聴取した上で、時季を指定して年5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。
ただし労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた年次有給休暇の日数(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除する必要があります。
つまり、使用者が指定する5日よりも、労働者自らの請求した時季や計画年休のほうが優先されるということになります。

 

年次有給休暇管理簿

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇管理簿には以下の数字を記録する必要があります。

・時季(年次有給休暇を取得した日付)
・日数(年次有給休暇を取得した日数)
・基準日(労働者に年次有給休暇を取得する権利が生じた日)

年次有給休暇管理簿はもちろん紙である必要はありません。
エクセルや勤怠管理ソフトなどで管理するのが便利でしょう。
労働基準監督署に提出を求められた際にはすぐに提出できるようにしておきましょう。

</5>【年次有給休暇管理簿】</5>

年次有給休暇管理簿 年休管理簿

全国社会保険労務士会連合会作成の年次有給休暇管理簿をダウンロードする

 

時間単位の年次有給休暇

年次有給休暇を時間単位で付与することは、就業規則に規定し(常時10人以上の労働者を使用する事業所)、労使協定を締結することで、年5日の範囲内で可能となります。
(労働基準法第39条第4項)

 

時間単位の年次有給休暇の労使協定

労使協定で定める項目は次のとおりです。
なお、この労使協定は労働基準監督署に届け出る必要はありません。

 

① 時間単位年休の対象者の範囲

対象となる労働者の範囲を定めます。仮に、一部の者を対象外とする場合には、事業の正常な運営を妨げる場合に限られます。
「育児を行う労働者」など、取得目的などによって対象範囲を定めることはできません。

 

② 時間単位年休の日数

1年5日以内の範囲で定めます。

 

③ 時間単位年休1日分の時間数

1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを定めます。
1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げてください。
(例)所定労働時間が1日7時間30 分の場合は8時間となります。

 

④ 1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数

2時間単位など1日の所定労働時間を上回らない整数の時間を単位として定めます。

 

時間単位年休は中抜け時間にも取得可能

時間単位の年次有給休暇は業務の始まりや終わりだけでなく、所定労働時間の途中の、いわば中抜け時間にも取得可能です。
所定労働時間の途中に中抜けした後で職場に戻ってきてその後残業をすることになったとしても、その時間単位年休は有効です。
事業主からすると年休で中抜けしておきながら残業をするというのは納得しがたいかもしれませんが、それでも時間単位年休を拒むことはできません。
またこれはフレックスタイム時間帯の途中の中抜けも同じです。
もっとも時間外労働割増賃金は所定労働時間ではなくあくまで労働時間で計算しますので、この年休扱いの中抜け時間のせいで割増賃金が発生してしまうということはありません。
ただし、就業規則に割増賃金の算定を法定労働時間ではなく所定労働時間で行うと規定している場合は、この中抜け時間も割増賃金の算定の対象となってしまいます。

 

時間単位の年次有給休暇と半日単位の年次有給休暇

年休5日付与義務、半日年休は数に入るが時間単位年休は入らない

年次有給休暇を5日以上付与しなければ事業主が罰金を課せられるその5日の年休の中に、半日単位の年休は数え入れることができますが、時間単位年休は数え入れることができません。
つまり例えば、半日年休を10回付与すると年休を5日付与したこととなりますが、時間単位年休を何十時間付与しても、年休5日付与義務を果たすことはできないのです。

 

時間単位年休よりも半日年休を優先すべき

所定労働時間が8時間で、時間単位年休を導入しており、時間単位年休を4時間取得したときの賃金と半日年休を取得した日の賃金が同額という事業所の場合、時間単位年休4時間と半日単位の年休はどう扱うのがよいのでしょうか?
時間単位年休はどれだけ付与しても年次有給休暇5日付与義務にはカウントできませんが、半日単位の年休は0.5日として数え入れることができます。
従って、労働者が4時間連続の時間単位年休を取得したいと申し出てきた場合はそれを半日単位の年休とみなすというルールを策定し、就業規則に規定しましょう。
また、労働者にはそれを予め説明して納得してもらいましょう。

では、連続4時間を超える時間単位の年休(例:6時間)を半日と、半日年休と残りの時間(例:2時間)の時間単位年休とに分割することは法的に認められるのでしょうか?
労働基準法で特にこれを禁止するような規定はありませんので、これも認められると考えられます。
しかしこれはイレギュラーなやり方であるため、分割する旨を予め労働者に説明して納得してもらう必要はあります。
まして労働者の納得が無いところで会社が一方的にこのような処理を行うことは不適切です。

 

年次有給休暇の買い取り

年次有給休暇を会社が買い取るということをたまに目にします。
余ってしまった年休を会社が買い取ってあげるのだから良いことのようにも思えます。
しかしこれは本当に良いことなのでしょうか?

年次有給休暇は金銭ではなくあくまで休暇を与えなければならない

労働基準法第39条に、年次有給休暇を付与することが事業主の義務であると定められていますが、金銭で代えてもよいという記述は一切ありません。
労働基準法第39条の年次有給休暇という制度は金銭ではなくあくまで休息のための休暇を与えることを求めています。
労働基準法は強行法規ですので、たとえ労使が合意していようとも、これに反して勝手に代替措置を採ることは認められません。

ただしどうしても取得することができずに既に時効消滅してしまった年休を事業主が厚意で買い取ってあげることまでは禁止されてはいません。
しかし、事業主が年休買い取りを行うせいで、年休を買い取ってもらうことを期待して労働者が年休を取得しなくなる、あるいは事業主が安易に買い取ればいいからと考えて年休付与に消極的になるというような事態を誘発し、制度の趣旨に反することにもなりかねません。
こう考えると、年休買い取りにはやはり問題があると言えます。
従って事業主が年休買い取りを正式に制度として運用するとなると、これは労働基準法の年次有給休暇の趣旨に反することになると言うことができます。
確かに実際に年休買い取りを行っている会社も存在しますが、必ずしも模範的なことではなく、本当に模範的なのは年休を全て取得できるようにしている会社です。

ちなみに事業主側が労働をさせすぎているせいで労働者が年休を取得できないという状況は労務管理として問題です。
労働者を不満にさせモチベーション低下を招きますし、労働基準法を十分遵守できているとは言えません。
理想は、労働者が年休の全日数を取得できるような体制でないならば人員を増やすなど何らかの対策を講じるべきだということになります。
実際優良企業は労働者全員に無理にでも年休を全日数消化させています。

現実的には余剰の人員を確保することや業務の繁閑を制御することはなかなか難しいことですが、労使が年休を必ず取得しなければならないという強い意志で臨めば、できないことはない問題であると考えます。

 

産前産後休業・育児休業と年次有給休暇の関係

産前産後休業・育児介護休業は労働日とみなすので労働日の8割出勤に数え入れる

労働者が年次有給休暇を取得する権利を得るには全労働日の8割以上出勤する必要がありますが、出勤していなくても産前休業・産後休業・育児介護休業を取得した日は出勤した日とみなして数え入れます。
つまり、産前休業から育児休業までの間はたとえ1年間全く出勤していなくてもそれが産休育休であるならば、翌年には付与年次有給休暇の付与日数が増えることになります。(最長20日まで)
ただしこの産休や育休はあくまで労働基準法で定める産前休業・産後休業、育児介護休業法で定める育児介護休業である必要があります。
労働基準法上の産前休業は出産予定日の前日までの6週間、産後休業は出産日以後8週間、育児休業は1歳(または1歳6か月、2歳)の誕生日を迎える日の前日までです。
それより前や後に体調がすぐれないなどの理由で自主的に欠勤する日については、これに当てはまらないので、欠勤日として数えます。

 

産前産後休業・育児介護休業中の年次有給休暇は?

年次有給休暇 産前休業 産後休業 育児休業全労働日の8割出勤したかどうかを考える時には産休・育休中の日も出勤したものとみなすのですが、では年次有給休暇の付与についてはどうなるのでしょうか?
年次有給休暇は所定労働日に付与するものですが、産休や育休中には所定労働日がありませんので、当然年休を付与することはできません。
ですから例えば年休付与の区切りとなる1年間まるまる産休と育休で休んでいた場合は、年次有給休暇を与える余地がありません。
この場合年休を5日以上付与しなくても、事業主が罰せられることはありません。
具体的な例で言うと、4月1日入社で毎年10月1日が基準日となる場合、10月1日から翌年の9月30日までまるまる産休育休で休んだ場合は、年休を1日も付与する必要はありませんし、そもそも年休を付与することができません。
この場合は当然、事業主が罰せられることはありません。

ただし注意が必要なのは、産休や育休が年休の計算期間まるまる1年ではなく、少し出勤日がある場合です。
この場合はこの出勤日の内に年休を5日以上付与しなければ、事業主が罰せられることとなってしまいます。
具体的な例で言うと、4月1日入社で毎年10月1日が基準日となる労働者が、10月6日から翌年の10月5日までまるまる産休育休で休んだ場合は、10月1日から10月5日までの5日間に年休を付与することができる日が5日間あります。
この場合は年休を付与できる日が存在するので、年休を付与しなければなりません。
この5日間で年休を5日付与しなければ、事業主が罰せられることとなってしまいます。

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