副業・兼業を認める傾向
政府の推奨もあり労働者に副業・兼業を認める事業所がここ数年で増えました。
自社の勤務時間外に労働者が何をしようがよそで働こうが会社が口を出すのはおかしい、というのはもっともです。
とはいえ副業により労働者が過重労働になってしまうのを防ぐ安全配慮義務を事業主は負っています。
また雇用保険や社会保険の被保険者資格の手続きをどちらの事業所で行うのかという問題もあります。
さらには企業秘密漏洩の懸念も生じるかもしれません。
そして複数事業所で働くことにより労働時間が法定労働時間を超過して、時間外割増賃金を支払う義務が発生する可能性も出てきます。
副業・兼業は届出制か許可制がお奨め
このようなことから、労働者のダブルワークを認めるにしても、届出制あるいは許可制にしておくことをお奨めします。
副業・兼業の届け出制や許可制を実施するには、もちろん就業規則に規定する必要があります。
ちなみに届出制とは、届け出さえすればそれで足り、副業・兼業に反対したり制止したりすることはできません。
それに対して許可制とは、副業・兼業は原則禁止で、事業主が許可をする場合にのみ労働者が副業・兼業をできる制度です。
副業・兼業の時間外割増賃金
割増賃金を支払う義務があるのは副業先のほう
実労働時間が法定労働時間である1日8時間、1週40時間を超えた場合には事業主は時間外割増賃金(25%増し)を支払わなければなりません。
これはそれぞれの事業所の労働時間は短くて片方のみでは法定労働時間を超えなかったとしても、副業・兼業を行うことによって両社を通算して1日8時間、1週40時間を超えた場合にも、やはり同様に割増賃金を支払わなければならなくなります。
では副業・兼業の時間外割増賃金はどちらの事業主が支払う義務があるのでしょうか?
時間外割増賃金について本業か副業かは、雇用契約を締結した時期が先か後かで決まります。
副業・兼業を通算して法定時間外労働となったときには、副業先の事業所のほうが時間外割増賃金を支払わなければなりません。
では副業と・本業とはどちらの事業所を指すのでしょうか?
先に雇用契約を締結した事業所を本業、その後で雇用契約を締結した事業所のほうを副業と考えます。
すなわち、後から雇った会社のほうが時間外割増賃金を支払うことになるのです。
このようなことからも、事業主は労働者を雇い入れる際に必ずその労働者が副業・兼業をしているかどうかを確認する必要があります。
入社前からのバイトを継続
新卒学生が学生時代からのバイトを継続
では、採用した新卒学生が正社員として入社してからもかけもちで学生時代からのバイトを継続する場合はどうなるのでしょうか?、
学生が就職活動を経て内定を勝ち取り正社員の仕事に就くのですからこちらが本業で、学生時代のバイトは単なる副業かのように思えてしまいます。
しかし本業副業は雇用契約締結の順番で決まるので、先述のように、先に雇用契約を締結した事業主つまり学生時代のバイト先のほうが本業で、後から雇用契約を締結した事業所つまり就活を経て入社した正社員仕事のほうが副業と考えることになります。
したがってこの場合、時間外割増賃金を支払う義務を負うのは、学生時代のバイト先ではなく、この新卒学生を正社員採用したほうの会社となってしまうのです。
こうなってしまうと正社員採用したほうの会社が負う割増賃金の負担は軽くはありません。
新卒学生に学生時代のバイトをやめさせることができるか?
本音としては時間外割増賃金を支払うことを避けたいので、その副業をやめてもらうよう学生に相談したいところです。
就業規則の副業規程によってはバイトをやめさせることはできない
しかし副業・兼業を禁止あるいは制止することができるか否かは、就業規則の副業規程でどのように定めているかによります。
もしも就業規則で副業を止めることができるような規定をしていない場合は、事業主は労働者の副業を止めることはできません。
通常このような事態までは想定していないため、就業規則の副業規程では制止できない可能性があります。
例えば副業を届出制と定めている場合、事業主側が副業の届け出を却下することはできません。
時間外労働の観点で制止できないか?
別の切り口で、例えば就業規則で所定時間外労働・深夜労働・休日労働は所属長の許可制であることを規定しており、ダラダラ残業や無駄な時間外労働割増賃金を抑える仕組みをとっている事業所であれば、これを根拠にバイトを止めさせることはできないでしょうか?
ダラダラ残業による無駄な残業代を抑える仕組みをせっかく作っているのに、副業のせいで時間外割増が発生してしまうのではたまりません。
気持ちとしては分かるのですが、しかし副業については時間外労働ではなくあくまで副業なので、副業規程にどう規定されているかによって判断するしかありません。
そうなるとはやり、この新卒学生の副業継続を拒む合理的な根拠は見つかりません。
強制的にバイトを辞めさせることはできなくても相談は可能
ただし、バイトを拒むことまではできなくても、副業を一旦辞めることはできないか当人と相談することくらいは可能です。
相談の結果学生がそれを受け入れずバイトを継続することになった場合、バイトを強制的に辞めさせることはできませんが、もしかすると相談に納得して副業停止に応じてもらえるかもしれません。
入社そうそうの副業で仕事は疎かにならないか
時間外割増賃金とは別の観点となりますが、入社当初からいきなり学生時代のバイトを続けることを認めて、正社員で入社した「本業」のほうに支障はないのでしょうか?
そのあたりも合わせて学生に相談することは問題無いと考えます。
そしてバイトを続けるせいで仕事に悪影響を及ぼすようなら当然指導が必要となりますし、勤務成績を低く評価することになり、査定で賃金額が少なめになってしまうかもしれません。
そのようなことにならないように労働者にバイトを続けるか問うことは、使用者としての当然の権利です。
もっとも人手不足、人材不足のこのご時世、優秀な学生には副業を認めて割増賃金を支払ってでも採用するというのも、今や選択肢の1つなのかもしれません。
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